偽物

街から
文学と音楽と映画が
いなくなって
もうだいぶたった

みんなもう覚えていない
かもしれないけど
今から10数年前
街にはカフェという場所があって
そこには
文学と音楽と映画があった

あの頃カフェは
店になりすました文学だった
店になりすました音楽だった
店になりすました映画だった

それに気づいた人々は
カフェを
偽物と罵った

偽物は街を追われ
本物の街には
無意味なものがなくなった

しばらくして
本物の街に
カフェが帰ってきた
カフェは
自らを本物と名乗った
本物のコーヒー
本物の食事
本物のデザート
街には本物があふれ
文学と音楽と映画は
居場所を失い
街を出ていった

本物の街は
静かで
美しく
正しい
なにかに
なりすましているようだった

それでも
この街にも
まだ
ある
目をぬすんで

文学と
音楽と
映画を
匿った
カフェが